お知らせ

患者の権利擁護を中心とする医療基本法制定に向けて

2020.05.06 UP

権利擁護システム研究会の有志企画として、患者の権利法をつくる会事務局長小林洋二さんをお招きして勉強会を開催しました。憲法と基本法について基礎的部分を学び、「患者の権利」の視点から「医療基本法」の必要性について考えます。

「患者の権利」は、メディカル・パターナリズムに対する患者の自己決定権の主張としてはじまったものであるが、個人の尊厳を保障する憲法13条、健康で文化的な生活を保障する憲法25条に照らせば、それは患者の医師に対する診療契約上の権利としてではなく、むしろ、医療に関する基本的人権と理解されるべきものである。
WHO憲章は、「人種、宗教、政治的信念又は経済的若しくは社会的条件によって差別されることなく到達しうる最高限度の健康を享受すること」を基本的人権の一つであることを宣明するとともに、ここでいう「健康」とは、「単に病気でないことを意味するものではなく、肉体的、精神的、社会的に良好な状態」を意味するとしている。WHO憲章の締約国は、国民のこのような健康を享受する権利を国民に保障する責務を負っている。
患者の権利の法制化は1970年代初頭にアメリカ各州のレベルではじまり、1980年代にはスウェーデン、アイスランドの北欧諸国で患者の権利に関する立法が行われ、1992年に、フィンランドにおいて、世界で最初の独立した患者の権利法が制定された。WHOヨーロッパ地域事務所「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」が採択された1994年以降、ヨーロッパ各国で、患者の権利に関する立法が相次いでいる。
日本では、1980年代後半から患者の権利を主張する動きが始まり、それによって、インフォームド・コンセントの普及、カルテ開示の制度化、医療事故調査制度の創設などの改革が行われてきたが、患者の権利を明確に定める法律は制定されていない。
2009年4月、ハンセン病に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会は、患者の権利擁護を中心とする医療基本法の制定を提言した。これを受けて、関係各方面で医療基本法の議論が始まり、2019年2月には医療基本法制定に向けての議員連盟が発足し、現在、立法の準備に入っているところであるが、その医療基本法の中で患者の権利がどのように位置づけられるかは予断を許さない。

さまざまな医療のなかで、とりわけ人権保障の重要性が強調されてきたのが精神医療の分野である。それは、とりもなおさず、精神医療こそ、もっとも人権が侵害されやすい領域であることを意味している。
障害者の権利に関する条約は、締約国に対し、障害者が障害に基づく差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有することを認めること、保健に従事する者に対し、他の者と同一の質の医療(例えば、事情を知らされた上での自由な同意を基礎とした医療)を障害者に提供するよう要請することを義務付けている。これは、いわゆる一般的な患者の権利とまったく同じ内容である。
すべての人は、健康な生活を営む権利、人格を尊重される権利、差別を受けない権利を有している。この権利は病気になったことや障害を負ったことで侵害されてはならない。もちろん、それが精神疾患であっても同様である。これは当然のことであり、患者の権利という考え方はその当然のことを強調しているに過ぎない。しかし、現実の医療においては、その当然のことが実現できてこなかった歴史があり、現にいまでも実現できていない場面が多々ある。
このようなことがあってはならないことを明らかにし、その防止策を講ずるための出発点になるのが、患者の権利擁護を中心とする医療基本法である。現在準備されている医療基本法が、その要請を満たすものになるよう、多くの市民、患者がこの議論に参加することが望まれる。

(患者の権利法をつくる会事務局長 小林洋二)

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