精神科病院に入院中の方の尊厳確立に向けて
里見さん
これまで精神障害者の差別や偏見をなくすための努力を、国や行政はやっておらず、逆に精神障害者に関する予算は削る一方である。差別や偏見は行政が作り上げたものだと考えている。精神病者監護法も隔離するための政策で、一義的責任を家族に負わせ、精神衛生法もその枠組みを引き継ぎ、差別や偏見を一層強めてきた。また、精神科特例を廃止せず、法の中に取り込んでしまった現状は、憲法に定められた基本的人権が精神障害者には保障されていないのではないか、といった現状が長期にわたり続いている、このような状況を弁護士として見過ごしていいのか、ということを全国の弁護士に発信したい。そして、精神障害者への差別や偏見をなくすには、行政のさまざまな施策の発動が必要。予算を増額し、精神障害者の尊厳の保障に使われるべきと考えている。
八尋さん
らい予防法や精神障害者に関連した法、この2つの衛生法規によって、らい病や精神病の方々を隔離政策や優性政策によって、憲法や人権の埒外に置いてきたと言っていい。基本的人権を踏みにじる政策が一環して流れてきたらい予防法と優性保護法は廃止されたが、精神保健福祉法はまだある。
精神保健関連法とらい予防法によって生み出された差別と偏見と言うのは、個人のひとりひとりの良心の問題ではなく、法律によって作られた差別と偏見である。そして、社会構造的なもので大量の人権被害をだす装置として機能し、いまだに存在している。
間違った法律は止めさせなければならないし、人権を侵害する社会構造も、ひとつひとつ、突き崩していかなければならない。らい予防法については、国が認めて謝罪し、厚労省、文科省、総務省が一緒になって国が作った差別をどうするか、本気で考える時期になっている。らい予防法の廃止が開けた風穴がある。
これからは、もうひとつ精神障害者とよばれる人たちの尊厳を規制してきた法制度をつきくずしていく必要がある。わたしたちは法律による差別と偏見について、もう一度、法律を見て、解体する作業、被害を受けた方々の名誉と人生の回復に向けてどんな政策がとれるのかを考えていく時期に来ていると思っている。
池原さん
どんな未来を創っていったらいいのだろうか、その大きな手掛かりは権利条約第14条、19条、25条にあると考えている。
14条は、差別的な自由剥奪は許さないといった内容である。これは、なぜ精神障害者だけ特別な自由剥奪の制度、強制入院があるのか、それは差別でしょ、という単純なメッセージである。もちろんこれは他の分野に強制入院を広げていくといったことではなく、強制を使わない一般の医療に精神障害者の医療も含まれるべきといったこと。あらゆる患者さんが安心して、病棟で、自分の意思で、治療を受けられる、そういった医療に関する法律をつくる、その中では精神障害者を特別視しないで他の病気や障害と同じで差別しない医療を実現することが求められる。
19条は、インクルーシブな社会の中で生きていく権利を認める、それは外国人、性的マイノリティの人、障害がある人などいろいろな人が街に住んでいる、多様性が尊重された社会で、いろんな人がごちゃごちゃにいるというのが人間の社会としては当たり前であり、一人一人にとってむしろ生きやすい社会になる。そのような社会の中に当然精神障害者が住んでいることが認められる、多様性や寛容性といったものが実現された社会であって。それを実現するためにはお二人の先生もおっしゃったように、十分な予算、行政のバックアップも必要だと考えている。100年以上にわたり行ってきた法律や政策を改めること、謝罪や被害の賠償をしたり、名誉を回復させたりということも必要。
この2つを柱としつつ、25条も重要で、これはインフォームドコンセントをはじめとし、平等な質と量と範囲の医療を障害がある人にも提供しなければならない、特別な病気や障害の人を特別視するのではなく、医療は平等に与えられなければならないということの裏付けである。
そういうものを実現させていかなくてはならない。できれば10年後にはそういう世界ができればいいなと思う。2014年に条約批准したので、少なくとも20年目の2035年くらいまでには、せめて権利条約が求めている社会を実現すると言うことが必要だと思っている。もちろん自分もこれからも力を尽くしたいが、若い人たちもバトンを受け取って、がんばって、いい社会をつくっていってほしいと思う。